はじめに
この記事では、ポケモンの英語名について語ります。
やりたいことは主に二つ。
- 筆者がポケモンの英語名に触れて気づいたことを紹介する。
- それを通じて翻訳/ローカライズを行うスタッフの方々の工夫を考察する。
それでは文字と音で二度楽しめる!
ポケモン英語名の世界へ!
レッツゴー!
既存の英単語と音をかけているポケモン
Wishiwashi/ヨワシ
初登場世代:第七世代
意味に気づいたときに最も感動を覚えたポケモン。
- 英単語の”wishy-washy”とほぼ同じ音であり、意図してかけている。
- “wishy-washy”には「色が薄い」「ぼんやりした色」などの意味があり、ヨワシのヴィジュアルと合っている。
- 日本語の「いわし」に極めて近い音が含まれている。
「既存の単語を連想させる」「ヴィジュアルを連想させる」「日本語の音ともつながりをもたせる」、この3つの要素を満たしている英語名はおそらく他にありません。
Bisharp/キリキザン
初登場世代:第五世代
英単語の“bishop”(キリスト教の高位聖職者である司教、チェスの駒の一種)を連想させる発音です。
キリキザンを象徴する“sharp”(とがった)という単語を組み込んでいます。
日本語の音を意識して名付けられたポケモン
Emboar/エンブオー
初登場世代:第五世代
まずは発音を聴いてみましょう。「エンブオー」にかなり近い音ではないでしょうか。
意味は“ember”と”boar”の組み合わせです。
“ember”は「燃えさし・燃え残り」という意味。
技の「ひのこ」も英語では”ember”です。
“boar”はエンブオーのモチーフである「イノシシ(猪)」です。
このように、音だけではなく意味も的確におさえている秀逸なネーミングです。
Girafarig/キリンリキ
初登場世代:第二世代
回文ポケモン。回文とは、上から読んでも下から読んでも同じ発音になる言葉や文章です。
そしてキリンリキは日本語名だけでなく英語名も回文になっています。上から読んでもGirafarig、下から読んでもGirafarigです。
“g(G)iraffe”(キリン)の音をベースにつくった回文が、そのまま名前になっています。
キリンリキ
下から読んでも
キリンリキ
(記憶が確かなら「オーキド博士のポケモン川柳」にあったはず)
発音すると楽しい、韻を踏んでいるポケモン
「韻を踏む」とは、同じ母音を使うことです。
音楽の一ジャンルであるヒップホップのラップで行われているのが有名ですね。
紹介する3匹とも第七世代初登場なので、サン・ムーンのスタッフにラッパーがいたのかもしれません。
Stakataka/ツンデツンデ
初登場世代:第七世代
“a-a/a-a”と同じ母音の並びが続いています。
発音するときは3つめの”a”を伸ばすと、自然な発音に近づきます。
ツンデツンデは日本語でも韻を踏んでいるので、英語名を決めるときにも意識したのだと推察できます。
Oricorio/オドリドリ
初登場世代:第七世代
(画像はぱちぱちスタイルとめらめらスタイル)
“i-o/i-o”と同じ母音の並びが続いています。
2つめの”i”を伸ばすと、自然な発音に近づきます。
オドリドリも日本語でも韻を踏んでいるので、英語名を決めるときにも意識したのでしょう。
Primarina/アシレーヌ
初登場世代:第七世代
“i-a/i-a”と同じ母音の並びが続いています。
やはり2つめの”i”を伸ばすと、自然な発音に近づきます。
余談ですが、3匹とも発音すると楽しくなってくるので、私は独り言でよくつぶやいています。
誕生したときに既に名前が決まっていた(?)ポケモン
???/マネネ
初登場世代:第四世代
突然ですが、マネネの英語名を考えてみてください。
ヒント:進化系のバリヤードの英語名は”Mr. Mime”(ミスター・マイム)
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正解は”Mime. Jr”(マイム・ジュニア)です。
“Jr”は”junior”を略した表記で、男性の名前が父親と同じ名前のときに使われる表現です。
「進化前=子ども」と仮定するなら、第一世代でバリヤードに”Mr. Mime”とつけてしまった以上、第四世代のマネネ誕生時に”Mime. Jr”以外の選択肢はなかったでしょう。
誰が考えても同じ名前になってしまうのではないでしょうか。
マネネの名前が”Mime. Jr ”だと知った瞬間に「マネネは誕生した瞬間に”Mime. Jr ”になる宿命を背負っていた」というアイディアにたどりつき、一人で興奮していました。
形容詞で想像をかき立てる名前のポケモン
Magikarp/コイキング
初登場世代:第一世代
前半部分は”magic”(魔法のような、魔法)に由来し、後半は”carp”(コイ[鯉])です。
弱々しいコイキングがギャラドスという強力なポケモンに進化する様子が、魔法のように見えてしまうのは確かに納得できます。
Lilligant/ドレディア
初登場世代:第五世代
エレガントな外見と動きでファンの多いポケモン。
あえてブラック・ホワイト当時の画像を持ってきました。
後半部分の”gant”は”elegant”(エレガント:優雅な、上品な)に由来しています。
“l(L)illy”はユリ(百合)を指し、花の一種です。
「歩く姿は百合の花」は、美人を形容する表現の一つ。
ドレディアを表現するにふさわしい美しい花です。
ドレディアファンのみなさん、ドレディアの頭についてる花は「百合」ですので覚えておきましょう。
実在の人物をモチーフにしているポケモン
Empoleon/エンペルト
初登場世代:第四世代
3つの意味をつめ込んでいる秀逸なネーミングを与えられたポケモン。
まず、“Napoleon”は、フランスの皇帝として有名な「ナポレオン」です。
“emperor”は皇帝という意味です。エンペルトのモチーフであろうコウテイペンギンに由来します。
“pole”は極地を意味します。”South Pole”(南極)は、コウテイペンギンの生息地です。
Kangaskhan/ガルーラ
初登場世代:第一世代
急に実写のぬいぐるみが出てきたのは、個人的に思い入れがあるためです。
第七世代当時、第六世代との注目度の落差が悲しくなり、対戦でよく使っていました。
シングルも全国ダブルもGSダブルも一緒に闘いました。
本題に入ると、ガルーラの英語名は、“kangaroo”(カンガルー)と”Khan”(ハーン:ハン、カン等とも)に由来します。
「ハーン」は遊牧民族の統治者に与えられる称号だそうで、特定の人物を指しているわけではありません。
とはいえ、やはり一代でユーラシア大陸にまたがる、冗談のような広範囲に勢力を広げたチンギス・ハーンをイメージしているのでしょう。
チンギス・ハーンが礎を築いたモンゴル帝国の最大勢力図。
第六世代のガルーラの活躍(征服?)は「名前負けしないようにしてあげたい」という公式の親心だったのかもしれません。
それに応えてユーラシア大陸、いや対戦界隈を暴れ回ったガルーラ。
第六世代で私たちポケモン・プレーヤーが見せられていたのは、公式とガルーラの美しい親子愛だったのかもしれません。
おわりに
この記事を通じて、ポケモンの翻訳/ローカライズスタッフの工夫の一端が伝われば幸いです。
私は読み書きや言語を使うのが好きな人間なので、書いていて楽しい記事でした。
紹介できる場が乏しい話題なので、発表の機会を与えてくださったAPPDATE様に感謝申し上げます。
あわせて、この記事はカルフール氏の寄稿記事に触発され、執筆を思い立ちました。この場を借りて御礼申し上げます。
リンク集
ページの末尾に名前の由来が書かれています。
記事内の音声を取得する際に使用したサービスです。
- ポケモンで行う言語学研究!(前後編)
言語学者の川原繁人氏による解説動画です。
なんでも「音自体に意味がある」という前提に立ち、音が表すポケモンの特徴を分析する研究が広がっているとのこと。
確かにポケモンを全く知らない人でもグラードンとピィ、どちらが強そうか聞かれたら、グラードンと答える人が多そうです。
寄稿ガイドライン
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寄稿におけるアレコレなどをご説明しておりますのでご覧ください。
コメント
コメント一覧 (2件)
バクフーンなんかは日本語名だけだと爆風+語感でンともとれるけど
英名Typhlosionのおかげで爆発+タイフーンだと判別できる。
筆者です。コメントいただき、ありがとうございます。
それは気づきませんでした。
確かにバクフーンの語感は、タイフーンからきていそうです。